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シュヴァ犬 ヤン君

¥68,096 税込
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錬金術師マンタムによるキメラのオブジェ。


マンタムとも親交の深い、チェコのシュルレアリスト〜映像作家の、


ヤン・シュヴァンクマイエルへのオマージュとして作られ、その名を冠しています。


狐の剥製をベースに、山鳥の翼、雉の頭部などが合わさったキメラの姿でありながら



どこか愛嬌を感じさせるマンタムならではの作品です。






台座部分 全長:約40㎝ × 60㎝。



高さ:約62㎝。



羽根の幅:約43㎝。










「 声を奪われてしまった少年の魂を宿したキメラ犬 ヤン の物語 」




その国は決して強い国ではありませんでした。



ですから強い国からの侵略に備える為、それなりにですが軍隊も作りましたし



侵略者達が少しでもその国を壊しづらいように、たくさんの美しい建物を建て



彼らをより理解する為に、侵略者たちの文化や政治の研究もしていました。



でも彼らの軍隊は数も少ないし、装備もたいしたものではありませんでした。



ですから、それだけだ防ぐ事は出来なかったので、侵略されないように近隣の国と



色々な約束事も作りましたが、実際に戦争がはじまってしまうと



いとも簡単に反故にされて折角の美しい建物も粉々に壊されてしまったのです。







それでも50年程、戦いの無い平和で静かな時代が続いていたことがあったのですが



ある時、突然侵略を受け、王様も、彼を支えていた大臣や兵隊も皆捕まって処刑され



その国からやってきた領主という役職の大きな頭のしかめ面な老人と



彼に仕えている太った魔法使いが代わってこの国を支配するようになったのです。






それでも最初の頃はまだ人々の生活が大きく変化する事はありませんでした。



税金だってそんなに変わらなかったし、食べるものや生活に必要なものが滞ることもありませんでした。



でも、その国の歌を歌う代わりに侵略者達の歌を歌わなければいけなくなり



食べるものやお酒も侵略者達の好みに合わせて少しづつ変えられていったのです。



折角美しく作れた建物も彼らの都合で、死んだような色に塗り替えられ、



通りのあちこちに据え付けられていた、彼らを守り和ませていた神様や精霊の彫像も



侵略者の英雄達の姿に代わって行きました。






そのうち侵略者達は学校を作り、自国の言葉や文化をその国の子供達に教え始めました。



それからそう経たないうちに彼らの言葉以外は使ってはいけないという法律まで作り



何処か遠い国での戦争の為に、その国の若くて元気な青年を戦場に連れて行くようになってしまったのです。







その少年の父親は青年というにはもう年を取りすぎていましたが



屈強で勇敢だったので兵士長に選ばれそれは名誉なことだとされて戦争に行くように命令されました。



父親は少年と2人暮らしで自分が戦争に行ってしまうと、他に預けられるところもなかったので



断りたかったですがそれはできませんでした。



もし父親が行かないのなら、代わりにまだ15歳にもならない少年達まで



戦場に連れて行くと言われたからです。






父親は他の大勢の村の男達と一緒にくすんだ緑色に塗られたトラックに乗せられ



少年は残された犬のヤンと近所の人たちに助けられながら



なんとか父親のいない生活を成り立たせていました。



少年はちゃんと躾けられていたので、近所の人たちの好意にただ甘える事はなく



ヤンと一緒に荷車を引いたり、山羊や牛を追ったりして村人達の暮らしを手伝っておりました。







だがある日、見回りに来ていた兵士がこの国の自由を取り戻そうとするレジスタンスと戦闘になり




戦死した事で、そのレジスタンスを引き渡さねば皆殺しにすると領主は村人に宣告したのです。




ところが、誰もレジスタンスを引き渡すような事をしなかったので



村人の中でも主だった長老達が最初に捕まり、見せしめとして処刑されても



誰もしゃべらなかったので、今度は村そのものが焼かれてしまいました。






火を逃れてなんとか逃げ出した少年も、村の出口で兵士に捕まり



それを助けようとしたヤンは銃で撃たれて、そのまま動かなくなりました。



少年はヤンを抱き上げたかったのですが、それすら叶わず



他の村人達と領主の前に引き出され、それぞれに審問を受ける事になりました。






少年はレジスタンスの事は勿論、彼らの知りたい事には何ひとつ答えず、領主に向かって



「領主という多くの人たちに責任ある人間が、兵士や銃を使って、ナイフひとつ持っていない人間を



脅して殺して大切な家まで焼いて、それでも恥ずかしくないのか?



そんな人間の知りたいことなど、なにひとつ答えたくない」



と答えたのです。






領主は怒り、兵士に少年を殺させようとしましたが、魔法使いがここで少年を殺せば




余計な反感をかうだけだからと止めて、代わりにその少年の声を奪いました。




そしてそのまま少年は帰されましたが、村はもう焼けて何も残っていませんでした。




彼はまず、ヤンの姿を探しましたが何処にもなく、住んでいた家も瓦礫と化していました。







村の有様は酷いものでした。



立て直すつもりで帰ってきた村人達も、しばらくすると惨状と、そこに残されたあまりにも辛く



受け入れがたい記憶に到底暮らす事の出来ない村だと諦めて、だんだんと他所へと移って行きました。



何度か少年も一緒に行こうと誘われたのですが少年は待たなければなかったので残る事にしたのです。







ところがある日少年は村人達と離れて、山羊の群れを追ううちに



崖から足を滑らせて深い窪のようなところに落ちてしまったのです。



普段なら助けを呼べば、いずれは誰か来てくれるような場所だったのですが



少年には声がなく結局誰も気付かないまま少年はそのままそこで死んでしまったのです。



少年が発見されたのは、いなくなってからちょうど一週間が経った頃で



もう少年は固く動かなくなっていました。






それでも村人達は動かなくなった少年を、村の外れに済んでいる錬金術師のところに連れて行くと



彼は少年のなかで、まだ助けをもとめている声を見つけて



それを水晶の坩堝で精製して少年の魂を呼び戻す事に成功しました。





ただ少年の体はもう冷え過ぎていて使えなかったので魂を彼が作ったキメラに移植したのです。



そのキメラの母体は、村が焼かれた日に村人達を助けようとして



焼けた村で見つけた銃弾を受け動けなくなっていたヤンでした。






ヤンは少年の魂を受け入れ少年はヤンの体を手に入れました。



錬金術師はレジスタンスの指導者の一人でもありました。



侵略者に対しての抵抗運動としてはじめたものですが、僅かな敵を倒しただけで



村ひとつが焼かれてしまい、あまりにも多くの犠牲を払う結果になってしまった事を



彼は苦悶し、それでキメラで戦う事を考えたのです。



ですが、合成生物であるキメラは元々複数の魂が混在していて、干渉し合う為、



よほど強い魂でないと歩く事さえ叶いませんでした。






ですが少年の魂を得たキメラは小さな羽を動かして空を飛ぶ事さえ可能にしたのです。



結果として成功したのはこの少年のキメラだけで、



それは少年の魂が強い必然によって存在するものだったからでした。






錬金術師は彼の計画を諦め、レジスタンスとしての活動も破壊工作等ではなく、情報の収集等に努め



そこからのプロバガンダを主体としたものに切り替えようと考えるようになりました。



キメラとして与えられた特殊な能力があっても、最新兵器で装備された軍隊に



たった1匹ではどうにもならないでしょうし、そもそも折角助けた少年の魂を



危険にさらしたくなかったからです。






少年の魂はキメラに移植された時点で、ヤンや他の素体となった生物の魂と融合したため



元の記憶を失い、もともとそうあった生物として自身を認識するようになっていました。



それでも侵略者に対しての怒りや、多くの同胞を失った悲しみは理解していたので



錬金術師の言う通りに侵略者達の動向を探りレジスタンスの連絡係として働いたのです。






少年のキメラはヤンと呼ばれるようになりレジスタンスの希望となりました。



そのヤンの働きで知り得た多くの情報でたくさんの命が守られたのです。



でもやがてヤンの存在は侵略者達にも知られる事になり、かつてヤンの村が焼かれたように



ヤンを引き渡さねば、古くから大切に守られ残された建築物がある美しい町を



爆撃すると通告してきたのです。






それでも誰もヤンを侵略者達に売り渡す者はいませんでしたし



誰もその町から逃げ出そうともしませんでした。






ヤンは戦うつもりでした。


もともと戦うために生まれてその為に存在していたのです。


錬金術師も同志であるレジスタンス達も誰もヤンを止めることはできませんでした。





ヤンは満月の夜、予告通り町の空を埋め尽くした侵略者達の航空兵器に


その小さな羽で懸命に立ち向かいました。


キメラとして与えられた特殊な能力と絶対の意志を持って敵う筈もない圧倒的な兵力と戦いました。





美しかった町は炎に包まれ多くの命とその記憶が失われました。


それでも多くの人達がヤンの戦いを見守っていたのです。





明け方にようやく戦闘が終わった時にはもう空を飛んでいるものはなにもありませんでした。




この後 ヤンを見たものは誰もおりません。




それからしばらくして侵略者達はこの国から出て行きました。



侵略者から兵士として連れて行かれた人たちも、ようやく帰されて



故郷の土を踏む事が出来その中には少年の父親もおりました。






天空に大きな月が昇った頃 父親はようやく懐かしい故郷にたどり着きました。



彼は少年に会えると思って嬉しくて家に戻ったのですが



故郷も自分の家もまだ焼け跡のままでそこには見た事もない小さな羽が落ちているだけでした。






その羽が何を意味するのか彼にはわかりませんでしたが、月の光に照らされたその羽を



とても懐かしいものと感じそこで少年の帰りを待つ事にしたのです。





空には大きな月が金色に輝き焼けて壊れた世界を照らしていました。



この国も父親も何もかもを失ったけれど、でもその金色の光の中には




未来への希望があるように思えたのです。


















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