「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
「月降らし」と名付けられたオブジェ作品。
「staLin」の幼生体であり、軟体動物のような身体に三日月のようなシルエットの殻を背負っています。
石粉粘土 油彩
全長:約14㎝。高さ:約13㎝。
「月降らし」
祖父から聞かされた、昔話なのですが
祖父が子供の頃、不思議な生き物を見つけたそうです。
友達とかくれんぼをして、あるところにずっと隠れていたんです。
少し凹んだ、横穴でした。上からは細い根っこが沢山出ていたそうです。
すると穴の奥に、光るものがあったんです。
彼がそれを手にとってみると、それは細長い、三日月の形をした金色の貝でした。
しばらく眺めていると、貝の入口からにょろりと、体が出てきました。
宇宙の様な群青色だったようです。
彼はかくれんぼのことなど忘れて、両手で貝をくるみ、一目散に家に持って帰りました。
そして自分の部屋に篭もり、押入れの奥に隠しました。霧吹きで、水もあげたりしたそうです。
「それで、どうしたの?」
祖父に何度聞いても、にこにこしながら、そこから先は教えてくれません。
ただ僕は、祖父のいつも腰掛けている箱椅子の中身が、少し怪しいと思うのですが。