「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
"砂場の宝物" と題された連作のシリーズ。
「机の上の流星」と題されたオブジェ作品。
石粉粘土をベースに、ラインストーン等の異素材を用いた意欲作です。
クジラのような姿をした乗り物に乗った人形のようなキャラクター。
小型の作品ながらも鱗のようなデティルと塗装によって表現された金属の質感に
高い造形技術をかんじさせます。
絵本のようなファンタジックな空気を纏った植田明志ならではの作品です。
オブジェ本体: 縦14㎝ × 横9.5㎝。
高さ:約16㎝。(台座下部から真鍮線上部まで)
台座:約18㎝ × 12㎝。
使用素材 : 石粉粘土、ガラス玊、ラインストーン、真鍮線。
「砂場の宝石」
公園の砂場の魔法を、もうほとんどの人が知らないのです。
カラフルに塗装された鉄のブランコは、羽化する残暑の蝉のようにぺりぺりと塗装が剥がれていました。
世界の終わりのような炎がブランコを照らす頃、長くなったブランコの影は砂場へと想いを馳せます。
その影はもう影でなくなったかのように儚げでした。
長い影がさらにさらに長くなり砂場を通りすぎると、
世界がトワイライトを惜しみながら深い青になっていきます。
すると、砂場の住人の声がしました。
砂場の住人たちは、子供達の去る声を聞きながら、砂の中で眠っています。
砂場の住人たちは、子供達の会話を思い出しています。
そして、砂場に作られた公園のちっぽけなお城の執事になったりしました。
あの子はねえ、ここが宝部屋と言っていたよ。あの子がね、ここが宝部屋だって。
ここに置いてある石は、机だって言ってたねえ。
そっちの穴は実験室だとも言っていたよ。
明日また来るんだって。
この城の周りにバケツで目一杯水を撒くんだって。
それじゃあここは、海になるよねえ。
そしたらね、その海はね、明日また夜になった時には、
お月様やお星様なんかをいっぱい水面に映すんだ。
きっととても深く見える。深海になるよねえ。
そしたらね、明日はね、僕ら、宇宙と一緒になるよね。
翡翠色になった空は、朝日を寂しそうに迎えました。