子供の頃、怖いと感じたこと、好奇心を抑えずにはいられなかった記憶などをテーマに
アクセサリーやオブジェ、洋服の製作、イラストやパフォーマンスなど、
幅広いジャンルに渡って表現活動を展開するアーティスト eerie-eery(イーリー・イーリィ)。
eerieによる立体作品、不気味で少しファニーな人形たちは、
作家自身の分身であるかのように物言わず静かに佇んでいます。
個展「追憶と眠りの国 ~眠りの為の回顧展~」用作品。
死の国[ アムニジア ]にひっそりと佇む歯科医院を舞台に繰り広げられる
追憶の物語と、その登場人物たちを人形で表現したシリーズ。
様々な理由で旅立ちを迎えた死者たちを具現化した作品です。
『 ピアノ弾きのカラス 』と題されたお人形。
鳥の頭骨のような顔をした人形と診察台がセットになっています。
※診察台と人形は取り外し可能です。
人形の口の中には人間の歯型が付けられています。
診察台は元々治療を嫌がる患者の気を紛らわせる目的で
アグリとパドマの両親が作った物の一つ。
実用的でないので物置に入れられていた。。という設定です。
全高:約28㎝。(人形を診察台に座らせた状態)
横幅: 約13㎝。 奥行き:約15㎝。
※こちらの作品は個展「追憶と眠りの国 ~眠りの為の回顧展~」会期終了後
(2014年7月21日)以降の発送となります。
納期についてはご相談下さい。
「追憶と眠りの国 〜 序文〜 」
産道のような暗い洞窟をくぐり抜けると
そこには金色の野原が広がっていた。
わたしはアムニジアにたどり着いたのだ。
一面に広がる金色の草原は
どこまでもどこまでも続いていて終わりがないようだった。
草を分け入って暫く歩いていると
草原の中にぽつりと佇む家を発見した。
歯医者である。
アムニジアには街も店も民家もない。
あるのはこの歯医者のみである。
歯医者の扉を開けると
車椅子に乗った少女が真っ直ぐこちらを向いて座っていた。
少女の後ろにはもう一人、顔のよく似た少女がいて、
よくみると背中でくっついているようだった。
車椅子の少女がポケットから小さな鏡を取り出し
わたしの口の中を覗く。
同時に背中にいる少女が書類をばらばらとめくり始めた。
車椅子の向きをくるりと変え、
背中にいた少女がわたしの前に現れた。
少女はわたしに赤い便箋を差し出した。
その途端に何とも言えぬ衝撃が
わたしの胸を打つのがわかった。
わたしは忘れていた何かを思い出した。
そこには愛おしい顔があった。
頬を温かい夕日が撫でていった。
『 ピアノ弾きのカラス 』
ある日アグリとパドマのもとにカラス頭の男が訪れた。
歯科医院に患者が訪れアグリとパドマが診察を行う。
これはいつもと変わらないアムニジアの日常の風景であるが、
このカラス頭の男にはほかの患者と違う点があった。
それは彼はこの歯科医院を訪れるのが今回が初めてではないという点である。
彼はアムニジアの草原の中で何度も季節を繰り返しており、
この歯科医院の扉を開けるのも何十回目か分からない程の常連になっていた。
何故そうなってしまったのかというと、
どうやら彼は頑なに診察を断り続けているということであった。
「昔から歯医者がどうも苦手でね、削る音が耳について仕方ない。
骨をごりごりとやる様な音も上品で無いのです。
怖くて怖くて。
しかしここ(アムニジア)は草が生えているばかりで他に何もないでしょう?
そうしてふらふらと歩いているといつもどういう訳か
ここに辿り着いてしまうんですから、困ったものです」
アグリとパドマはこのカラス頭の男に今まで何度も口を見せて貰おうと努力したのだが、
彼は口を開いてはくれなかった。
それでも話しているうちに少しずつ心が通うようになり、
最近では彼が来ると診察を諦めてお喋りをして過ごした。
彼の方も二人を話し相手にしており、いつも歯科医院で長話をするのがお決まりになっていた。
「草原を歩くのはいいものです。
風と空気が戯れるのを聴いていると住んでいた街の事を思い出します」
いつもの様に待ち合いのソファーに腰掛けて話し始めようとするカラス頭の男を見ながら
パドマはくすくすと笑った。
アグリはパドマが笑うのを小さく叱るとこう言った。
「では、今日は少し変わった物でも見せようかなと思います」
アグリとパドマは診察室の奥へと消えて行き、何やら大きな機械を引きずって来た。
奥から引っ張り出されて来た物は昔の診察台の様だった。
その診察台にはなんとピアノが付いていた。
しかもよく見ると鍵盤は歯で出来ている。
そしてピアノの上部には口を大きく開ける為の丸い器具が付けられていた。
カラス頭の男は驚いた様子でその機械を見ていたが、
暫くすると診察台に腰掛け鍵盤に指を置いた。
「いろんなピアノを弾きましたが、こんなピアノは初めてですよ」
鍵盤に指を下ろす。
潤った石の空洞に響く様な不思議な音色が鳴った。
「何故わたしがピアノ弾きだと分かったんです?」
アグリとパドマは何も言わずにこにこしていた。
カラス頭の男は微笑むと嬉しそうに鍵盤を叩き始めた。
「いい曲を弾いて差し上げましょう。
貴女達の様な仲の良い双子の星の曲です」
遠い昔にした子供同士の約束をずっと守っているような優しい音色に包まれて
歯科医院に温かい時が流れた。