「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
個展「遠すぎるパレード」用作品。
「トラベラー」と題されたオブジェ。
土偶を想わせる宇宙服のようなものを纏った男の子が造形されています。
男の子の夢の中から抜け出して、過去へ未来へと時空を旅するトラベラー。
旅の途中、同じく時空の旅人である「フレンドシップ」と出会い
白い星のパレードの中核であり記憶の結晶体である「ファンタジアの車」に引き寄せられ
フレンドシップと共に、ファンタジアの車の周りを飛び回っています。
全高:約28cm(台座下部から真鍮金具上部まで)。
横幅:約16.5cm(両翼の端から端まで)。
石粉粘土、真鍮棒、チェーン、アクリルドーム
アクリル彩色
「トラベラー」
たまに夢が、夢であるとわかる夜があります。
僕は宇宙をひゅんひゅんと飛び回っていました。
星たちがいつもよりずっと近くに感じられ、銀河たちがくるくる回っているのが見えます。
遠くで、死んだ星が、泣きながら色んなものを食べていました。
すると遠くから、やはり同じ様にひゅんひゅん言わせて、こちらに飛んでくる人がいました。
彼は僕の隣にぴたっと来ると、そのメロンソーダの中の泡みたいな眼をぷくぷくと光らせました。
僕は、彼とそのまま旅をしました。
僕は彼から色んな話を聞きました。
月みたいな大きな魚が、遠くで寂しそうに泳いでいたこと。
怪獣になるのが夢の子供の話。
大きな花の根元で、大切な誓いをしたこどもの話。
彼はそんな話を沢山話してくれました。
そして、彼のいちばんお気に入りの場所へ連れて行ってくれるそうです。
とても遠いらしいので、にやにやしながらぼそぼそと耳打ちをしてくれた彼の言うとおりにしてみます。
僕らは少しだけズルをして、一瞬で4つの宇宙を超えました。
最初に目に入ってきたのは、きらきらした青い宝石達。
彼はといえば、僕のすこし上で得意げにしていました。
青い宝石達は、今までの寂しい出来事をガラス玉に閉じ込めて、
そのまま海の中に沈めたら出来そうな、そんな気がしました。
彼が、僕にひとつだけ、とっておきの宝石を教えてくれました。
覗いてみなよ、なんて。
万華鏡を覗くように眼を近づけてみると、小さな子どもが眠っているようでした。
触ったりしたならば、宝石ごと色々な気持ちが、ほろほろと崩れていきそうです。
宝石の中の子どもは、もう宇宙で最初の真っ赤な夕焼けみたいな星ができた時から
そうしてきたようにして、眠っていました。
そして僕は、ふと感じました。
ぞくっとして、涙がぽろぽろと溢れると、
そこから青い宝石がどんどん溢れ出して、僕を覆います。
上を見ると、彼もぷくぷくと涙を流して一緒に泣いてくれました。
僕と彼の宇宙服は、もう宝石でいっぱい。
そして僕らはそのまま、ゆっくり眼を閉じました。
外はどんよりと曇っていて、今にも雲が泣いてしまいそう。
僕は、はっと昨日の夜から右手に握り締めたままのそれを思い出しました。
今日は学校で、昨日拾った珍しい
メロンソーダみたいな色をしたビー玉を、友達に自慢するのです。