「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
個展「遠すぎるパレード」用作品。
"出会い" と "別れ” の象徴である「花束」をモチーフにしたオブジェ作品。
白いクジラと色とりどりの花々が合わさったようなデザインとなっています。
突然訪れる出会いや別れは、コントロールする事の出来ない運命であり
花から伸びた木の根のような脚に融合しているクジラは
自身の意志とは関係なく、花の向かう方へと行かねばなりません。
鯨の口内には子供の顔が造形され鯨髭にあたる部位は途中から変化し、
子供の頭髪にも見えるように処理されています。
子供は目を閉じて、少し微笑みながら、逆らえない運命に対して祈りの歌を唄っています。
花びらの一枚一枚に至るまで作り起こされた花束の造形が見事です。
花たちは軟質の樹脂粘土を使用しているため、ゴムのような弾力があります。
全長:約53㎝。高さ:約48㎝。幅:約21㎝。
石粉粘土。軟質粘土。
アクリル彩色。
※こちらの作品は御注文から梱包〜発送までに少々お時間を頂いております。
※こちらの作品はラッピング対象外となります。
「花束」
大きな花でした。
なんだか、それはもう全部知っているみたいに花は咲きました。
花はみんなラッパみたいに歌っていました。
私とあなたはこの花の根っこで遊ぶんです。
くるくる回ったり、かくれんぼをしたり。
遊び疲れてふたり眠りました。
夢の中で星はきらきら光って、くるくる銀河は回っていました。
流れ星がふたつ、祈りながら遠くに横切っていくが見えました。
あっ!もうひとつ大きな流れ星。
遠くの星ではいつかの夕焼けが見えました。
夕焼けが眼を閉じると、その星は宇宙に溶けました。
いつかの日の私が、そのことを知っていたなら、もうちょっと優しくなれたでしょうか。
きっと、目を開けると、もうとなりには誰もいないんです。
だってほら、太陽がまた昇るでしょう?
花は枯れてしまうでしょう?
私の頬を、雨上がりに葉の上を転ぶ水滴のように、涙だけが流れます。
湿った地面からは、懐かしい匂いがするんです。
地面はいつかの消えかかった虹を思い出したのだと思いました。
眼を開けると、あなたが花になって歌っています。
それを見た僕は、少しだけ笑ってみることにしました。
あなたも、いつか枯れるでしょうか。
それでは、そのときに、
私はきっと風になって種を運びます。
いつか、私がそのことを知ったときに、
ほんのすこしだけ優しくなれますように。