「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
個展「遠すぎるパレード」用作品。
「この夜が終わる頃に」と題された大型のオブジェ作品。
繰り返す昼と夜をイメージした作品です。
"夕焼け"をイメージした生き物と、"夜"が具現化したような怪獣が
老人の顔をした乗り物の上に配置された独創的なデザイン。
「遠すぎるパレード」の物語の最後を締めくくる作品です。
"夜" は泣きながら "夕焼け" を食べています。
そして "夕焼け" は己の運命を受け入れるかのように
目を閉じ、穏やかな表情をして "夜" に飲み込まれていきます。
老人のような顔をした乗り物の身体の表面には大切な思い出の象徴である
沢山の家々が造形され、絵本のような淡い色彩で彩られています。
腹部からは街の根っこが鍾乳洞のように下方に伸びています。
夜は毎日訪れ、明けていく。
繰り返す毎日は、同じように感じていても
止まっている訳ではなく進んでいます。
石粉粘土、木材、真鍮線
アクリル彩色。
高さ:約59㎝。横:約38㎝。
「この夜が終わる頃に」
花が種になる頃
誰かが手を握り締める頃
少年と少女が、本当の意味でひとつになる頃
きっとこの夜には満天の星空が散りばめられるんです。
だって、あんなに悲しそうにしてるんですもの。
そしたら、あの子はまたひとりぼっち。
あんなに仲がいいのに。
夕焼けが炎の様に街を包んで、世界が終わるみたい。
飛行機雲が隕石みたいに沢山降ってる。
子供達の笑い声が、とぎれとぎれのラジオみたい。
午後五時になると、子供達もみんな、
遊ぶのをやめて、胸に手を当ててこの一日を想うのです。
それからみんな炎に焼かれて無くなって、風と一緒になりました。
あの子は悲しそうに、夕焼けを食べてるよ。
あの子だけは、子供達の笑い声も聞けないままです。
宇宙みたいな色をした大きな涙が、
頬を伝って口の中に入っていくのが見えました。
それでも夕焼けは、眼を閉じて笑っているだけでした。
それでもあの子は、ただ泣いているだけでした。
怪獣やヒーローが描かれたカーテンを開けると、もう夜でした。
そしたらほら、もう、星がいっぱい。
ぴかぴか、ちかちか、みんな恥ずかしそうに光ってます。
どこかで進むパレードを、照らしてくれているように思いました。
僕はといえば、もうすっかり泣き止んで、
あなたに「バイバイ。」ってちゃんと言ったんです。
きっとこの夜が終わる頃には、僕はもうあなたのことなんて忘れて、
「おはよう。」なんて言うんです。
そんなことばかり考えていたら
遠い遠いどこかで、優しい歌が生まれました。