『star mine』
今まさに出発の時だった。
その出発地には、すでに沢山の見物者。
この飛行船は、誰かの夢なのだろうか。
しばらくすると、小さな歌が聴こえてきた。出発の合図だ。
少しづつ飛行船が地面から浮き上がると、その大きな化石はぱらぱらと音をたてて、
きらきらとした銀色の破片を地面に落とした。
それが見物者たちの頭上に、かすかな夕立のように降り落ちた。
子どもたちは笑ったり、頭に乗ったその破片を興味深く覗きこんだりしていた。
いつしか小さな歌は段々とその輪郭を増し、確かに聴こえる音楽となっていた。
見物者たちが、口を揃えて歌っているのだった。
宇宙に浮かぶ星たちは振動するように瞬いて、その出発を祝福した。
どうか無事に。その子のことをよろしく。
見物者たちは、みんな一斉に目を閉じた。
みんな一斉に眠っている子どものことを想った。
彼の無事を祈った。その願いは、結晶化する雪のように強固で、儚かった。
花火があがった。
その花火は最後のお別れを言う子供みたいに、思い切り体を広げて散って行った。
沢山の花火は、いつしか大きな花束となり最後の祝福と、賛辞を、思い切り叫ぶ。
そしてすぐに枯れた。
飛行船は大きく口を開けたまま、そのまんまるな瞳にそれを映させた。
花束のすべてを。
もう、これでフィナーレ。
見物者たちは、静かに目を閉じたままだった。
何人かは飛行船を先導しに、その後をついていった。
眠ったままの子どもは、いつか目を覚ますのだろうか。
祈ってくれたたくさんの見物者のことを思い出せるだろうか。
出発地には、落とされた沢山の破片が残っていた。
それは振動する星たちの光に合わせて、いつまでもきらきらと光った。