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eerie-eery 「ルビーとバハムート」

¥44,000 税込
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子供の頃、怖いと感じたこと、好奇心を抑えずにはいられなかった記憶などをテーマに


アクセサリーやオブジェ、洋服の製作、イラストやパフォーマンスなど、


幅広いジャンルに渡って表現活動を展開するアーティスト eerie-eery(イーリー・イーリィ)。


eerieによる立体作品、不気味で少しファニーな人形たちは、


作家自身の分身であるかのように物言わず静かに佇んでいます。








「子供と魔法展〜神話」用作品。


「ルビーとバハムート」と題されたオブジェ。


ヨブ記などに登場する巨大な魚の姿をした怪物 "バハムート" をモチーフにした作品です。





神話によると、バハムートはその巨体で大地を支えているとされています。


神が作った大地を天使が支え、その天使を支えるためにルビーの岩山が置かれ、


岩山を支えるために巨大な牡牛クジャタがあり、


そのクジャタを支えるためにバハムートが置かれているとされており


「ルビーとバハムート」では、その様子が形成された頃の事がオブジェとして表現されています。














「ルビーとバハムート」



世界が生まれたばかりの頃、世界には子供しかおりませんでした。


海は湖のように小さく、草花は芽吹いたばかりで、動物達もみんな子供でした。


そんな子供達の世界の中、一際大きな体をした子供の魚がおりました。


それがバハムートでした。





バハムートはその大きな体のせいで他の子供達からいじめられました。


みんなが遊んでいる時、「僕も仲間に入れてよ。」と水面から顔を出すのですが、


「大きすぎて一緒に遊べないよ。」と言われ独りぼっちになることばかりでした。


その度にバハムートは泣きました。


泣いているのを見られたくないので海の底でひっそりと泣きました。


そして次第にみんなの近くから離れ、海の底で暮らすようになりました。











ある日、バハムートが海底を散歩していると頭に何かが当たった感覚がしました。


ゆっくりと水中に転がり落ちてくるものを目で追うと、それは小さな石でした。


バハムートはきっと山羊が岩壁を登っている時に蹴った落石か何かだろうと思い、


そのまま散歩をし続けました。





しかし、しばらくするとまた一つ、そしてまた一つ、リズムよく小さな石は落ちてくるのでした。


不思議に思ったバハムートは水面に顔を出してみました。


すると、崖の辺りに一人の牛の女の子がちょこんと座っておりました。



 「やっと出て来てくれた!」



牛の女の子はにこにこして両手を広げたポーズをとりました。



 「貴方、最近遊びに来ないからわたしが遊びに行こうと思って。」



牛の女の子は膝の上に置いていた小石をざらざらと全部海に落として言いました。



 「…僕と遊ぶ為に来てくれたの?それに、どうして僕のいるところが分かったの?」



バハムートは不安そうに尋ねました。



 「貴方の瞳はとっても眩しいから、海の中にいてもすぐに分かるのよ。」



バハムートは海底で過ごすことが多くなったせいで、


いつの間にか目がライトの役目をして光るようになっていたのでした。


その変化は僅かなものだったので、バハムートは全く気付きませんでした。



 「…そっか、知らなかったなあ。」



 「あら!こんなにも眩しいのに。」



牛の女の子は目を丸くして驚いた表情をしたかと思うと、すぐに目を細めて笑い出しました。


バハムートは少し恥ずかしくなりました。



 「ごめんね。わたしルビーって言うの。」



ルビーは笑うのをやめてバハムートの鼻の辺りをこんこんとやりました。












この日、バハムートに初めて友達が出来ました。


二人は毎日一緒に遊ぶようになりました。


バハムートは水しぶきをかけて雨を降らせたり、


陸を走るルビーを水中から顔を出して泳いで追いかけたり、


夜になると岸と海のぎりぎりのところに寄り添っていろんな話をして眠りました。


そうして二人は一日も離れることなく一緒に暮らしました。




月の満ち欠けを幾度も見送り、いつしか二人は恋をしていました。


それから何年も経ち、世界は徐々に大人へと成長していきました。


海はとても広く深くなり、陸にも森が沢山出来ました。


周りの動物達もみんな大人になり、子供を産んで家族を増やしていました。


しかし、バハムートとルビーだけはいつまで経っても子供のままでした。


やがて、幼なじみだった動物達が死んでその子供が子供を産んでも


やはりバハムートとルビーは子供のままでした。


二人の成長は周りと比べてとてもゆっくりだったのです。



「わたし達もいつか大人になれるかしら。


 大人になったらわたしも息継ぎ無しでずっと海の中を泳げるようになったり、


 貴方も陸を走れるようになったり出来るのかしら。


 そしてみんなのように愛し合ったり家族を持ったり出来るのかしら。」



二人は大人になったらきっと一緒になれると信じていました。


けれど、心の何処かでそれは無理だということもわかっていたのです。



 「きっとわたし達は住む世界が違うから、だから大人になれないんだし一緒にもなれないんだわ。」



ルビーは悲しそうに呟きました。











バハムートにもそんな気持ちが心の中にありましたが、


ルビーの頭を顎で撫でながらゆっくりと話しかけました。



 「住む世界が違うなんてことはないんだよ。世界はひとつしかないのだから。


   僕達はひとつの世界にいるからこうして話すことが出来るのだし、


   それに、ひとつの世界にいるから僕は君に見つけてもらえた。違うかい。」



ルビーは下を向いて小さく頷いていました。


バハムートには見えませんでしたが、泣いているようでした。



  「大人になったらきっとひとつになれるから。だから大丈夫。」



ルビーはバハムートの首に顔を埋めて小さくなりました。


バハムートもそれを包み込むように体を巻いて眠りました。


二人の居る海岸に波の音が絶えることなく静かに響いていました。


月が海の底まで照らすような明るい夜でした。


ある日、ルビーは久しぶりに海岸を離れ、森に木の実を取りに出掛けて行きました。


その日は天気があまりよくなかったのでバハムートは心配でしたが


早く帰ってくるように言ってルビーを見送りました。


しかし夕方になってもルビーは帰ってきませんでした。


バハムートは心配になり、水中から顔を出したままぐるぐると泳ぎ周り陸の様子を伺っていました。


月が空に昇る頃、空には雲が流れてきて今にも雨を降らしそうになっていました。


そしてとうとう月の光を隠してしまいました。


真っ暗になってしまったことでルビーが帰れなくなっているのではないかと


バハムートは心配で心配でいてもたってもいられなくなりました。


崖から落ちたのではないか、猛獣に襲われているのではないか、


色々な考えが次々と溢れ、心配で心臓は飛び出そうでした。


まるでバハムートの心を映すかのように、空もどんどん暗くなり、雷も鳴り出しました。


それからしばらく経った時でした。


真っ暗な森の入り口から誰かが走って来るのが見えました。


ルビーでした。


木の実を沢山抱えたルビーはバハムートを見付けたようで、一直線に走ってきます。


バハムートは、「良かった!」と心の中で叫び、ルビーに近づこうと陸に身を乗り出しました。


その時です。


空から光の矢が落ちてきて二人の間に突き刺さりました。


ルビーは持っていた木の実と一緒に後ろに転がり、


バハムートも海岸の方へ弾き飛ばされました。


随分と大きな雷だったようで、バハムートは沖の方まで飛ばされましたが


すぐにルビーを心配してルビーの所まで戻りました。


海岸のところまで来て水面から顔を出したバハムートに衝撃が走りました。


倒れているルビーの胸に光の矢が刺さっていたのです。


辺りの地面にも沢山の光の矢が刺さっていました。


どうやらさっきの雷の光の破片が飛び散って


それのひとつがルビーにも刺さってしまったようでした。



 「ルビー!」



バハムートは必死でルビーを抱きしめました。








ルビーは少し目を開いて辛そうに息をしていました。



  「帰るのが遅くなってしまってごめんなさい。」



バハムートは首を振りました。



  「ルビー死なないで。ずっと傍に居て。


     僕達一緒に大人になっていつかひとつになるって言ったじゃないか。」




バハムートは泣いていました。


泣いているバハムートを見上げてルビーは一生懸命呟きました。



   「そうよ。大人になったらきっとひとつになれるから。だから大丈夫。」



ルビーはバハムートの鼻の所をゆっくりこんこんとやりました。



   「貴方を独りにはしないわ。」



ルビーはそう言ってバハムートを見つめると嬉しそうに目を細めました。


そして、バハムートの首に顔を埋め、小さくなって眠りました。


バハムートはルビーを包み込むように体を巻いて抱きしめました。


長い時間陸に居たのでバハムートの体は乾燥して鱗が沢山剥がれてしまいました。


それでもバハムートはルビーを抱きしめ続けました。


ルビーの血でバハムートの体はピンク色に染まっていきました。



(独りにしない。)



バハムートは心の中で呟きました。


心が温かくなるのが分かりました。










次第に空に雲間が現れ、月の光が二人を照らし始めました。


いつの間にか、二人の周りにはまだ生まれる前の天使が集まっていて、


二人が抱き合う様子をいつまでも見守っていました。


それから何十年も何万年も経ちました。


ルビーの血は固まり、赤い美しい宝石になりました。


やがて長い年月を経てルビーの背中には赤い宝石が採れる鉱山が出来ました。


そしてその鉱山の近くにはルビーに似た牛達が沢山集まるようになりました。


バハムートはその下に広がる海の底で、その世界を抱くように今も泳いでいます。










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