「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
「音を辿る舟」と題されたオブジェ作品。
生物のような頭部と脚を持つゴンドラと
そのゴンドラに乗ったマスクをつけたようなキャラクターが造形されています。
ヴェネツィアのゴンドラのような生き物に跨った人物は
仮面をつけたような顔をしており、頭部にはツノゼミを想わせる突起が生えています。
その手に持つ長い槍のようなものは、ゴンドラを漕ぐオールのようにも見えます。
ゴンドラの舟首に当たる部位はヴァイオリンのようになっており
ペグ(糸巻き)のようなものも見受けられます。
また、その両脇には力強いタッチで造形された両手が
何かを掴みとろうとするかのように伸びています。
格子状になった腹部。
大切なものを守るように両手で包み込まれています。
宇宙を想わせる青い色で彩られた内部を覗きこむと
小さな流れ星がユラユラと浮いています。
無数の小さな歯がびっしりと生えたゴンドラの顔部。
木材のような質感を表現した塗装が見事です。
また、ゴンドラのボディを覆う、プリミティヴな模様も特徴的です。
使用素材:石粉粘土。アクリル彩色。真鍮線。
横:約74cm。
奥行き:約30cm。
高さ:約48.4cm。
「音を辿る舟」
そんな大切なものを
ずっと忘れてしまっていたんです。
それでも僕は、しっかりやってきたのに。
もう、僕には奏でる音がありません。奏でる術がありません。
だってこんなにも世界は新しい世界を望んでるんです。
だからあなたは、僕が気にもとめず、そのまま行ってしまうって、諦めてるんでしょう?
あなたは、僕が聴こえてるかもわからないでしょう?
あなたと離れた実感が、僕の心を紡いでいく。
ほら、もう、だから大丈夫だよって。
いつか、
音を辿って、あなたの元へ。