「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
個展「虹の跡」用作品。
「星を繋ぐ王さま」と題されたオブジェ。
インドゾウの頭骨からインスピレーションを得て造形された姿は
長い2本の牙と、エキゾチックな身体の模様が特徴的です。
ふたつの手が繋ぎ合わさったような身体をした「星を繋ぐ王さま」。
惹かれ合う二人は、ふたつでひとつの存在。
王さまの下半身を構成する手は、寂しくて膝を抱えたような姿をしており
もう一方の上半身から伸びた手が、優しく包み込んでいます。
石粉粘土。
全長:約73㎝(牙の先から本体最後部まで)。
高さ:約46㎝。
幅:約22㎝。
※こちらの作品は、植田明志個展「虹の跡」会期終了後(2016年11月16日)のお渡しとなります。
※こちらの作品はラッピング対象外となっております。
『星を繋ぐ王様』
こんなに深い夜の中、砂場で子どもたちが二人で遊んでいた。
その砂場はきらきらと金色に輝いているように見えた。
月明かりのせいかと思ったが、夜空に月は浮かんでいなかった。
二人は何かひそひそと話しながら、砂を細く、月のない夜空に伸ばしていった。
彼らのとなりには、古ぼけたプラスチックのシャベルと、
誰かの名前がかかれたバケツが置いてあった。
その名前は、すり減って読めなかった。
数本の砂の塔ができた。
砂を固めた水のせいか、より金色がちらちらと輝いていた。
それはまるで王冠のようにみえた。
どこか遠い宇宙で、ひとつの星が、仲間外れにされた星を呼んだ。
仲間外れにされた星は、誰にも見つけてもらえていない、
ハッブル宇宙望遠鏡にすらも写っていなかった。
太陽ができるずっと前から、この世の隅っこにいた星。
膝を抱えた腕は、深い闇の中で白く震えていた。
名前を呼ばれたとき、もっと震えた。
大木が風に吹かれたような、綺麗な震えだった。
そっと暗闇に腕を伸ばす。指先が触れた。思わず引っ込めた。もう一度、伸ばす。
もうひとつの手が、震えていた星の手を、探るように、確かめるように、握った。
懐かしい感触だった。
懐かしさなんてあるはずない。なのに、いつか会ったことがあるように思えた。
暖かい。いつかの夏の終わりの、温度。
確かな鼓動があった。このリズムも、知っている。
ふたつは少しだけ笑った。涙が流れた。
曖昧な記憶達は涙とまじり合い、光り合った。
それは確かな光になり、ひとつの大きな星になった。
いつしか、あの砂場のふたりはいなくなっていた。
後には、何かを祝福するように、金色に光り続ける王冠があるだけだった。
いつまでも、光っていそうな、微笑み合っていそうな、輝きだった。