「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
個展「虹の跡」用作品。
「まねのこ」と題されたオブジェ。
「虹の跡」の物語の舞台である、記憶が降り積もって出来た山。
その山に棲む、妖精のような不思議な存在であり、
記憶の案内人であるキャラクター「ポーポー」のキグルミを被った子供を造形した作品です。
「ポーポー」たちが寂しくないようにキグルミを被った子供。
「ポーポー」の尻尾を模したクッションの上で、「ポーポー」たちを
待っていますが、いつしかウトウトと眠ってしまっています。
キグルミを着た子供と、尻尾のクッションは
別々に造形されていますので、取り外しが可能です。
石粉粘土。アクリル彩色。
奥行き:約10㎝。
横幅:約8㎝。
高さ:約8.5㎝。
※こちらの作品は、植田明志個展「虹の跡」会期終了後(2016年11月16日)のお渡しとなります。
※こちらの作品はラッピング対象外となっております。
「ポーポー」
昔、妖精を—きっとあれは妖精だったのではないか−、見たことがある。
それは色んなところに居て、例外なく尻尾に体を沈ませていた。
中には飛んでいるものも、どう見ても怠けているようにしか見えない者など、多種多様だった。
僕以外だけじゃなく、周りの仲間たちも見えているようだったが、
それを口に出す者はひとりもいなかった。
まるで、気づいていないようなそぶりをするのだ。
彼らは、じっと僕の目をみて、その手を小さくぱたぱたさせたり、
口をプルプルと震わせていたりするだけだったが、
僕に何かを伝えようとしているように思えた。
彼らは何かの使いなのだと思った。
つまんで手の上に乗せてみると、僕と、彼が立っていた場所を交互に見始めた。
彼らの立っていた場所には、何かの跡のようなものがあった。
何かでひっかいた跡や、刻まれたふたりの名前、死んだ虫。
気づくと、手の上からは彼らは消えていた。
僕は、すこし考えて、
誰にも気づかれずに死んだ虫の死骸を、
近くにあった白い花の下に、そっと埋めた。