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植田明志 「虹を呼ぶ弓」

¥550,000 税込
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「記憶」を媒体とした空間造形から、


ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。


無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、


その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。









個展「虹の跡」用作品。


「虹を呼ぶ弓」と題されたオブジェ。


古来より、"神が矢を放つ弓" であると考えられてきた「虹」をインスピレーションソースに


二頭のクジラが弓のようになったデザインを表現しています。











二頭のクジラが融合して三日月状になった弓の表面には


古代の遺跡を想わせるような緻密な模様が彫られています。


三日月の中心には、小さな子供の顔が造形されており


静かに目を閉じています。











個展「虹の跡」作品の特徴でもある人体の一部を取り入れたデザイン。


腹部には骨状の部位も造形され、大きく開いた身体の内部には


白いクジラが浮遊しています。












石粉粘土。真鍮線。


アクリル彩色。



























『虹を呼ぶ弓』


思えば、もうしばらく、虹を見ていなかった。


雨が降れば、外には出なくなったし、


コンクリートに染み込んだ、夕立の匂いも嗅がなくなった。


だから、遠くで嵐の音がしたときに、僕の胸は弾んだ。




あの弓が引かれる。


僕の心の中にある大きな弓。


きりきり、と苦しそうに音を立てて、長細い胴体がしなる。














嵐がくる。


その弓は世界の果ての町を突き刺し、凄まじい轟音とともに、摩擦熱でその街を焼いた。


衝撃波の中で、逃げ惑う人々は、あっというまに消えてなくなる。


灰になった真っ白な街で、僕がひとりだけ立っていた。


最後に手を繋いでいた女の子も、いつの間にか居なかった。






僕の手の中にある、微かな灰がざらついた。


次第に雨が落ち来てくる。


雨雲なんてなかったが、太陽に照らされ金色になったこの世界で、雨は降った。


それはまるで、何かを諦めた子供が、思いきり口を開けて、笑っているような雨だった。














ああ、このままこの街は、大きな夜に呑まれてしまうだろう。


この真っ白な街を月の光が反射させて、いつか行ったスキー場みたいになる。


僕は、そのまま骨を蹴散らして、そこを歩く。


そしたら、きっとだんだん泣きたくなってくる。


その時にはじめて声を出して泣こう。






僕はひとり、膝を抱えて夜が暮れるのをまった。


雨は少しづつ暖かくなり、僕の肩を叩く。


陽が沈むまでの一瞬、分厚い雲の一番下から、光が射す。


それは白い大きな生き物が千年に一度産む、特別な卵のようだった。










その卵の光は、この暖かい雨に語りかける。


雨粒は光を帯び、僕の顔を照らした。


僕は虹ができているのに気付いた。


ずっとここに居たんだよ。って言っているようだった。


この雨が、虹を見せてくれたのだ。





虹はずっとここにいて、雨がその輪郭を叩き、その光を虹に写しこんだのだ。


涙は堪えたかった。だって、この夜のためにとっておきたかったから。


気が付くと声が出てしまっていた。


どんどん大きくなった。口が裂けるんじゃないだろうかと思った。















僕は、虹が消えてなくなってからも、


小さな光が降り続けるこの世界で、たったひとりで泣き続けた。












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