「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
個展「虹の跡」用作品。
「よそのこ」と題されたオブジェ。
「虹の跡」の物語の舞台である、記憶が降り積もって出来た山。
その山に棲む、妖精のような不思議な存在であり、
記憶の案内人であるキャラクター「ポーポー」。
「よそのこ」は「ポーポー」になれなかった存在です。
鮮やかな色合いのポーポーたちに対して、
深い夜の闇を纏ったかのような「よそのこ」。
その身体は黒い体毛に覆われており、
尻尾が変化した乗り物のようなものにまたがっています。
石粉粘土。
アクリル彩色。
全長:約14.5㎝。
高さ:約17.5㎝。
『よそのこ』
ぽてぽてと音を立てて、きょろきょろと注意深く頭から生えた角を動かしながら、
よそのこは歩いていた。
なんでも、探しているものがあるらしい。
その角はレーダーの役目をしているようだった。
子どものころ、よく「よそのこと遊んだらいけない。」と、親にきつく言われてきた僕は、
大人になった今ならいいだろうと、よそのこを持ち上げようとした。
すると、角を少しだけ大きく出し、威嚇してきたが、すんなりとつままれて持ち上げられてしまった。
大きさはすっぽりと手に収まるくらいで、じーっと僕の顔を見ているのだった。
尻尾から生えた手足をぱたぱたと動かし、先端を点滅させた。
よそのこは、何かがあった証を探しているようだった。
でもきっと僕が手伝ってあげては意味がないのだろう。
彼に見合うものがあるのだろう。
僕はそっとよそのこを押入れのドアの隅へと置いた。
よそのこは30秒ほど止まったままでいると、
何かを思い出したように押入れの奥へと駆けていった。
明日になったら、そっと押入れを覗いてやろう。気づかれないようにさ。