「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
個展「虹の跡」用作品。
「夢をみる公園」と題されたオブジェ。
誰もいなくなった公園にひっそりと佇む遊具のシルエットを
太古の恐竜の姿に例えた作品です。
石粉粘土。
アクリル彩色。
台座部分 全長:39.5㎝
高さ:約25.5㎝。
『夢をみる公園』
公園で約束をしていた。
あたりは真っ暗。夏の終わりを告げる歌を虫たちが歌っている。
月はまんまる。途中大きな怪獣みたいな雲が通りかかり、月を目にして遊んでいた。
公園の門をくぐる。その時に短い合言葉が必要だった。
公園に入ると、すでに遊具たちは夢をみている最中だった。
かちこちと、氷のような音を鳴らしながら、本来の自分たちの姿を取り戻していた。
「久しぶり。」僕はそう返す。
「あのときから随分時間が経ったね。」
沢山の話をした。
いつかの夕方が綺麗だったこと。そのときにススキまみれになったね。
噛まれたこともあった!あれは君が悪い。
茂みを抜けると、君の身体にはたくさんのひっつきむしが付いていて、僕が取ってあげたんだぜ。
あのとき、君は声を出して泣いていた。ずっと見てたんだよ。
気づくと、すでに星たちは消えて、月は溶けていく氷のようにその姿を滲ませていった。
遠くでコバルトブルーに沁みていく空は、今日という日そのものを強制的に知らしめさせた。
さよならだね。
僕は必死で涙を堪えた。
また夜がきたら、会えるよ。
その声は、月と同じように空に滲み、風に吹かれて消えて行った。
それ以降、すっかり夜の公園に行かなくなった。
何故だか自分にもわからなかった。
いつからかぽっかりと忘れていたみたいに。
ふと思い出したのは、寒くなりススキがふわふわと空を撫でだしてからだった。
今日、天気がよかったら、行ってみよう。
少し大きくなった僕を、彼はびっくりするだろうか。