「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
個展「虹の跡」用作品。
「夢の生まれる場所」と題されたオブジェ。
流れ星をイメージソースにした、「虹の跡」の物語の最後を飾る作品です。
大きな流れ星と、それを見上げる二人のキャラクターが造形されたディオラマタイプの作品。
流れ星の首元からはキラキラした光が放射線状に溢れ出し、
その身体は絵画的な表現で彩色されています。
詩的な情景は、見るものに様々な物語を感じさせる植田明志ならではの作品となっています。
本体全長:約38㎝。
高さ:約36.5
『夢の始まる場所』
旅の途中だった。
パレードはいよいよ佳境。小さな演奏者達は少し飽きてきたようだ。
ちょっと抜けてあっちに行ってみようぜ。
僕らは少しだけズルをして、パレードから外れた。
ごつごつとした山道を進んでいく。
段々パレードの音楽が遠ざかっていく。
運動会で、ひとり体調を崩したとき、保健室で休む僕の耳に聞こえる歓声。
それを思い起こさせた。
少し切り立った丘の上が見えた。
あそこまでいってみようよ。
そこから見た景色の中は、上は満点の星空。
ちかちかと瞬く星たちは僕たちを少し叱っているようだった。
遠くでパレードが見えた。
彼らはまるで僕らのことを忘れてしまったかのように思えて、少し不安になった。
その瞬間、大きな流れ星が流れた。
それは本当に大きくて、緑色に光ったかと思えば、
桃色の尾を引いて、ぱらぱらと小気味の良い音を鳴らした。
こんなに大きな流れ星を見たのは、初めてだった。
その流星は僕らの頭上すぐですれ違い、
花火大会のように、地面と、僕らの頬を光で染めた。
ああ、なんて大きな夢。
きっと誰かが眠ったんだ。
その人の、報われなかった夢は、こうして大きな流星となって僕らを照らしてくれる。
報われなかった夢は、そのまま役目を終える。
でも、最後にこんなに素晴らしい景色を見せてくれている。
星が死ぬときと同じだ。
そして、この宇宙のどこかで、また夢が生まれるんだよ。
さあ。帰ろう。
みんなに教えてあげよう。
とびきり大きな夢を見たよ。
誰かが眠ったんだよ。
僕は、このことを、忘れられないよ。
僕たちは、かすかな音楽を頼りに、駆けだした。