「記憶」を媒体とした空間造形から、
ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する造形作家 植田明志(うえだあきし)。
無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、
その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。
個展「虹の跡」用作品。
「飴玉金魚」と題されたオブジェ。
「虹の跡」の物語の最後を飾る流れ星「夢の始まる場所」と
対となる金魚型の小作品です。
丸く膨らんだ身体の中に沢山の夢が詰まった金魚。
膨れあがっていった夢や記憶たちは、やがて金魚の尾ビレに
縛られた紐が解け、身体の中から飛び出します。
石粉粘土。
アクリル彩色。
金魚本体 全長:約12㎝。
高さ:約17㎝(台座底部から金魚尾ビレ末端まで)。
『夢の始まる場所』
旅の途中だった。
パレードはいよいよ佳境。小さな演奏者達は少し飽きてきたようだ。
ちょっと抜けてあっちに行ってみようぜ。
僕らは少しだけズルをして、パレードから外れた。
ごつごつとした山道を進んでいく。
段々パレードの音楽が遠ざかっていく。
運動会で、ひとり体調を崩したとき、保健室で休む僕の耳に聞こえる歓声。
それを思い起こさせた。
少し切り立った丘の上が見えた。
あそこまでいってみようよ。
そこから見た景色の中は、上は満点の星空。
ちかちかと瞬く星たちは僕たちを少し叱っているようだった。
遠くでパレードが見えた。
彼らはまるで僕らのことを忘れてしまったかのように思えて、少し不安になった。
その瞬間、大きな流れ星が流れた。
それは本当に大きくて、緑色に光ったかと思えば、
桃色の尾を引いて、ぱらぱらと小気味の良い音を鳴らした。
こんなに大きな流れ星を見たのは、初めてだった。
その流星は僕らの頭上すぐですれ違い、
花火大会のように、地面と、僕らの頬を光で染めた。
ああ、なんて大きな夢。
きっと誰かが眠ったんだ。
その人の、報われなかった夢は、こうして大きな流星となって僕らを照らしてくれる。
報われなかった夢は、そのまま役目を終える。
でも、最後にこんなに素晴らしい景色を見せてくれている。
星が死ぬときと同じだ。
そして、この宇宙のどこかで、また夢が生まれるんだよ。
さあ。帰ろう。
みんなに教えてあげよう。
とびきり大きな夢を見たよ。
誰かが眠ったんだよ。
僕は、このことを、忘れられないよ。
僕たちは、かすかな音楽を頼りに、駆けだした。