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植田明志 「海の音を聴くカロン」

¥528,000 税込
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「記憶」を媒体とした空間造形から、


ある種のノスタルジーを感じさせる世界を表現する


造形作家 植田明志(うえだあきし)。


無音のような静けさと、理想的な深層心理の核心を探求する、


その作品世界は見る者の心に深い余韻を残します。








「海の音を聴くカロン」と題された


ナマケモノをモチーフにしたオブジェ。


大きな巻貝を耳に当てた時、海のような音が聞こえたという


作家の幼い頃の憧憬を表現した作品です。


ぱっくりと割れた背中からはハチミツのような琥珀が見えています。





「海の音を聴くカロン」


子供のころ、父と一緒に海に来たことがある。


貝を拾いに来た気がする。


私はズボンの裾を濡らして、不快で泣いた。


その後私は早々に貝拾いに飽きて、潮溜まりを見ていた。


水面は真夏の灯りに照らされて、


細かなリズムを刻みながら複雑に輝いた。


大きな海に残された、小さな海のようだった。








実際、潮溜まりの中は様々な命で溢れていた。


小さなカニが忍者のように底を横切り、


巻貝は「だるまさんがころんだ」みたいにして微かに歩いていたし、


磯巾着はまだ大きな海とも思い出の中にいた。


それはまるでひとつの惑星のようだった。









気づくと、私はその潮溜まりの中から、


無数に仕切られたステンドグラスのような波を見上げていた。


ステンドグラスに遮られた夏の音色は、


公園の土管の中のように籠って聴こえた。


その時私ははじめて自分の心臓の音を聞いた気がした。


鼓動は夏の音の中で混ざり合い、遠い昔のことのように朧気になった。


いつの間にか月が顔を出していた。


小刻みに動くステンドグラス越しの月は、


父に怒られて泣いたときに見た、


天井の灯りと同じように歪んで見えた。


私はこの小さな世界の、生き物のひとつになった。







私はしばらく、取り残された小さな海の中で、


月と一緒に波の音を聴いていた。


遠くで、父が私の名前を呼んでいるのが聞こえた。








約47cm × 約43cm × 約39cm


石粉粘土、アクリル彩色。




※こちらの作品は2022年1月末以降の発送となります。

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