斧原由季の絵のメインモチーフである心臓や、脳、昆虫などは
トロンプルイユ(騙し絵)のように見る者を惹きつける不思議な美しさを湛えています。
そこに描かれるのは、擬態と寄生を繰り返し、刻々と姿を変えながら生き延びて来た生命そのものであり
溢れるような生命の息吹と死という両義性を感じさせるものとなっています。
冬虫夏草をモチーフに描かれた平面作品「歳月」。
蝉の幼虫の頭部から伸びた菌糸の先端部には、綿糸のカギ編みによるフジツボ状デティルが施されています。
長い年月を土の中で過ごし、羽化する前に他の生命の礎となる冬虫夏草に
作家が感じた「自己犠牲」のイメージを投影した作品です。
手漉き紙。アクリル。鉛筆。綿糸。マグネサイト。キャンバス。
45.6 × 38。